「儲かる会社」と「お金の残る会社」は別物である

公認会計士の安藤智洋です。突然ですが、あなたの会社は儲かっているでしょうか?

今期も絶好調で過去最高益を更新している!という会社もあれば、以前は大きく儲かったときもあったけど最近は苦しい状況が続いているという会社もあるかと思います。

では、その儲かっていた時期に会社にお金はあったでしょうか?

お金が潤沢にあったならば、正しい財務の知識をもって経営をしている会社です。しかし、儲かっているはずなのに思ったほどお金がない、と不思議に感じている経営者の方は多いはず。

今回はこの疑問を解決していきたいと思います。

儲かっている会社なのにお金が増えない理由

お金が増え続けている会社は、儲かっている会社です。しかし、この逆は必ずしも成立しません。つまり、儲かっている会社なのにお金が増えない会社があります。しかも、多くの中小企業は儲かっている会社なのにお金がない会社という残念な状態になってしまっています。

儲かっている会社なのにお金が増えないのには理由があります。例えば次のどれかに心当たりはないでしょうか?

  • 売掛金や受取手形の残高が急増している
  • 売上規模に対して在庫の数量が多すぎる
  • 多額の設備投資を行っている
  • 銀行から証書貸付でお金を借りている

このように儲かってもお金が増えない理由はさまざまですが、儲けることとお金が増えることは別物であるということをまずは覚えておいてください。

「儲ける」とはどういうことか?

ここまで、言葉の説明もせずに「儲ける」という単語を使ってしまっていたので解説します。この記事で使っている「儲ける」という言葉は「利益が出る」という意味です。つまり、損益計算書において当期純利益がプラスであるということです。

なお、会社のお金がどんどん増えていく状態のことも、儲かっている状態ではありますが、この記事ではその意味では用いませんのでご注意ください。

では、「利益」とはいったい何でしょうか?

利益とは、「売上-経費」で算定される計算上の数字に過ぎません。つまり、利益そのものには実体がないのです。なお、お金にはもちろん実体があります。お金があるという状態は、現金として持っていたり、預金通帳に数字が記載されていたりという形で実感することができますよね。

利益には実体がないため、利益「だけ」を見て、増えた減ったと一喜一憂しても意味がありません。しかし、それでも利益は経営をするうえで重要です。なぜなら、利益には実体がないものの、これにいくつか要素を加えると実体のあるお金に変化するからです。多くの中小企業の経営者が犯す間違いは、利益だけを見て経営判断をすることなのです。

お金がなくても税金は払う

利益に実体がないことを最も感じるのは納税のときです。

税金はお金に対してかかるのではなく、儲け=利益に対してかかります。実体のないものを元に計算するので、全然お金がないのに納税額は多額になるということがよくあります。

そんなとき、社長としては「お金がないのに納税するなんておかしい!税金の計算が間違っているはずだ!」という風に思い、顧問税理士に問い合わせを行います。しかし、税理士からは「利益が出ているから納税する必要があります。計算は間違っていません。」というような回答をもらいます。そうすると、意味がわからずモヤモヤし、しかも納税資金を何とかしなければならなくなるのです。

税理士と話が食い違う理由は、社長はお金の話をしていて税理士は利益の話をしているからです。社長自身もお金と利益の違いについて学ぶ必要はあるものの、このような場面では、専門家である税理士もきちんと社長にわかる説明をしてあげるべきだと思います。

利益とお金の関係

利益とお金の関係は次のようになっています。
お金=利益+減価償却費-運転資金の増加-設備投資-借入金の減少

実体のない利益がどのようにして実体のあるお金に変化するのか、それを表すのが上の式になります。

減価償却費とは、有形固定資産の価値の減少を費用として計上したもので、現金支出を伴わない費用です。費用なので、利益に含まれているのですが、お金の増減とは無関係なので足し戻しています。

運転資金とは、売掛金、受取手形、在庫の合計から買掛金、支払手形の合計を引いたものです。例えば、売掛金が増加するということは未回収のお金が増加するので、その分手元で使えるお金は減少します。このため、運転資金の増加額はマイナスします。なお、運転資金が減少している場合には、この部分はプラスとして計算します。

設備投資をすればお金が減るのは当たり前なので、この部分の説明は割愛します。

借入金の減少とは、返済するということです。したがって、借入金の減少額だけお金も減るのでマイナスします。

この記事の最初に、儲かっている会社なのにお金が増えないのには理由をいくつか挙げましたが、実は上の式に対応したものなのです。

  • 売掛金や受取手形の残高が急増している→運転資金の増加
  • 売上規模に対して在庫の数量が多すぎる→運転資金の増加
  • 多額の設備投資を行っている→設備投資
  • 銀行から証書貸付でお金を借りている→借入金の減少

最後の、証書貸付でお金を借りることがなぜ借入金の減少に繋がるのは、証書貸付は毎月返済が必要だからです。

利益とお金の関係は、慣れないうちは非常にわかりにくいかと思います。押さえておいてもらいたいポイントは、お金が減少する3つの理由(運転資金の増加、設備投資、借入金の減少)です。しかも、この3つは損益計算書を見ても載っていないので、利益が出ても(儲かっても)お金が増えないことがあるのです。

まとめ

儲かっているのにお金が増えないときは、運転資金の増加、設備投資、借入金の減少のいずれかが必ず起きています。原因を正しく突き止め、対処していくことが、会社のお金を増やすための第一歩です。